下町に住みたい

『ただいま』そう言い靴を脱ぎ 靴を揃えてる 靴なんか独身時代はまるで揃えてなかった 男は豪快な方がいいと思ってたからだ 結婚して すぐに マナミに指摘された そのうち 揃えていないと 小遣いを減らされるようになり この行動が当たり前になった。 もとから雀の涙程度の小遣い そこから さらにピンハネされては もう何も出来ない しかし おかえり くらい 言ったらどうだろうか？ 居間では ミュージックステーションを見ている マナミがいた 『やっぱ福山はかっこいいわ』九州男児の福山雅治にマナミは心酔していた 俺は そんなマナミにサービスがてら 福山を歌ってみた 『♪いま～聖女になって～抱いてくれ～』・・・マナミは無言で リモコンで音量を上げた 『おい！』『何？』マナミは面倒臭そうに こちらを見た 『おかえりくらい言えよ』『おかえり』『今じゃねぇよ』『じゃあいつ？』『ただいまの後に一呼吸 その 後に おかえり』『何？亭主関白？』『ふ、普通じゃろがい！！』『シゲフミさぁ』『何？』『アンタはさ、因果応報って言葉を知ってるかい？』『自分の行いは自分に帰ってくるってやつか？』『そう、私をもっと聖女のように扱えば私もアンタの扱いを変えるよ』マナミはそう言うと 再びテレビに目線を移した マナミをぞんざいに扱った結果 ・・ 確かに 結婚前 俺はマナミに対してはぞんざいだったかもしれない いや とはいえ 九州男児 ぞんざい も 愛 だった 因果応報 ・・ か 『腹すいたろ？』マナミはテレビを見ながら 聞いてきた 『ん？あぁ』『ほれ』そう言うと 右手を伸ばし ビニールの袋の輪に手をかけ こちらによこした ほっかほっか亭 『お、おい！』『何？』『飯ってこれか？』『悪い？』『お前、主婦だろうが！』『アンタ週休２日。私は？』『お前、主婦なんざ毎日が夏休みや冬休みみたいなもんだろうが！』『やれやれだぜ』『！』『朝早起きし誰がお前の弁当を作ってる？誰がお前のスーツのシワをのばし 誰がお前の部屋の掃除機をかけ・・』『それが主婦の仕事だろ！』『そう、仕事だよ』『！』『休んでるんではない。決してな』『じゃあ、なんで弁当なんだ？』『主婦に休みが無いということは主婦は休みを自分で設けなければいけないんだよ』『な、何だと？』『今日は臨時休業でほっかほっか亭に仕事を派遣したんです。290円で』 『2、290！』弁当はのり弁当 だった 『はうあ！』『私はもう済ませたから』テーブルには 幕の内弁当の空箱があった 『おい！』『何？』『なんで俺はのりなんだ？』『シゲフミ』『なんだよ？』『因果応報』『だからわかんねぇよ』『のり弁を食って考えなさい』『・・』俺はのり弁を食べながら考えてみた 考えてはみたんだがそれ以上にひさびさに食べたのり弁が美味しかった ちくわ 白身魚フライ のりおかか シンプル 極めて シンプル いい意味で普通 ベーシック・・ わからない マナミが 俺に何を求めているのかなんだか 負けた気分だ九州男児が女に負けることはプライドが許さない 九州男児への扱い 俺も マナミに返さなくては 因果応報 で『シゲフミぃ！』『呼び捨てにすんな！』『オヤジ！』『誰がオヤジだまだ34だぞ！』『立派にオヤジだろうが』『・・・』何か 言い返しさなくては 何か 『あ、あ、あのよぉ』『何？』『あのよ』『何？あの世？』何か 何か 何か 『のり弁当もたまにはいいもんだな』ぁぁぁぁ 完敗だった マナミは 少し 口元を歪ませ ニヤリとすると 言った 『飾り気のないもんが一番だったりするの。』・・ 『じゃあなんでお前は幕の内なんだ』『気分』『はぁ？』わからない マナミがわからない こうして 今日も また マナミに乗せられ １日が終わるのだ